肥満はうんち移植で治る?!腸内細菌を使った最先端医療とは

腸内細菌移植で体型が変わる?

タイトルを読んで「うんち移植?汚い!」と思われた方も多いと思います。しかし決して冗談ではありません。すでにうんち移植はアメリカをはじめ、日本の病院でも行われている大腸疾患の治療方法の1つです。ただし、肥満治療としてのうんち移植はまだ研究段階なのです。

うんちという言葉を使用しましたが、うんち移植とは腸内細菌移植のことで、腸内細菌は腸に送られてきた食べ物を消化してエネルギーに変換する役割を果たしています。近年、腸内細菌と肥満の関係が明らかになり、腸内細菌を移植するための研究が注目を集めているのです。

さらに、最近の研究では腸内細菌はこのエネルギー源を私たちの体に供給するだけではなく、その調整にまで関与していることがわかってきました。腸内細菌がエネルギー代謝(燃焼)調節に関与しているということは、肥満・糖尿病といった代謝疾患に直接的に影響を及ぼすということです。

それでは、これらを証明する実験データをご紹介しましょう。

腸内細菌移植で太ってしまった不幸なマウスの話

2006年「ネイチャー」に投稿された論文をきっかけに、肥満と腸内細菌の関係が明らかになりました。

Turnbaugh,P.J.とLey,R.E.らが論文の中で行った実験によると、肥満マウスと正常マウスの腸内フローラ(腸内細菌の複雑な生態系)が異なることを発見したのです。

肥満マウスには、体内にエネルギーや栄養素を溜め込む性質をもつ「Firmicutes群」の腸内細菌が多く、正常マウスには脂肪の蓄積を抑え、エネルギーの燃焼を促す性質をもつ「Bacteroidetes群」の腸内細菌が多いことがわかりました。これはヒトにおいても同じ結果だったのです。

さらにそれぞれの腸内フローラを無菌マウス(腸内細菌を持たないマウス)に移植すると、肥満マウスの腸内細菌を移植された無菌マウスは肥満傾向になることがわかりました。

同じ食生活をしていても太りやすい人、太りにくい人っていますよね。これも腸内フローラによって、エネルギーの代謝調節が異なるため生じると考えれば納得できるのではないでしょうか。

腸内細菌のエネルギー代謝調節の仕組み

お腹にいる腸内細菌が一体どうやって身体にシグナルを送り、エネルギーの調整を行っているのか不思議ですよね。

このメカニズムについても現在さまざまな研究によって解明されつつあります。

腸内細菌は胃で消化されなかった難消化性食物から、私たちにとって重要なエネルギー源となる酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸と呼ばれる代謝産物をつくるのです。これらの代謝産物が大きく分けると2つのシグナルを介してエネルギーの調節に関与していると考えられています。

シグナルその1、ホルモンの分泌

腸内細菌は女性ホルモン、男性ホルモン、副腎皮質ホルモンをはじめさまざまなホルモンの分泌に関わっていることがわかっています。

肥満に関与するレプチン、GLP-1、PYYといったホルモンも腸内細菌の関与が示唆されています。レプチンは脂肪細胞によって分泌される食欲抑制ホルモンです。肥満の抑制や体重増加の抑制に働きかけます。このレプチンの分泌に腸内細菌の代謝産物が関与しているのではないかと考えられています。

また、腸管から分泌されるホルモンGLP-1、PYYも同様に腸内細菌の代謝産物がシグナルを送り、分泌されている可能性が報告されています。GLP-1はインスリン(血糖値を下げるホルモン)の分泌を増加させ、PYYは食欲を抑制する働きをもつホルモンです。

シグナルその2、交感神経の活性化

摂食時に腸内細菌によって産生された代謝産物は余剰エネルギーとなり、交感神経を活性化し、エネルギーの消費を促進させてエネルギーバランスを保っていると考えられています。

つまり、腸内細菌はホルモンと交感神経を介してエネルギーの代謝調節をしていることが予想されます。

腸内細菌移植の現状と今後

現在、実際に日本で腸内細菌移植が行われているのは、治療が難しい難病とされている「潰瘍性大腸炎」の治療方法としてです。

健康な人の便を水で薄めて、内視鏡で大腸に直接注入する、という非常にシンプルな方法です。現在保険の適応外ですが、腸内細菌移植によって潰瘍性大腸炎の症状が劇的に改善されたという患者さんも多数存在します。

一方、アメリカでは腸内細菌移植は日本より進んでいます。中には、太った人の腸内細菌を移植して患者さんの体重が劇的に増加してしまったというような副作用の報告もあります。腸内細菌を提供してくれるドナーは慎重に見つけなければなりませんね。

今後は、やせている人の腸内細菌移植を行い、肥満を治すことや、エネルギー代謝疾患の1つである糖尿病の患者への腸内細菌移植も研究が進んでいきます。ちなみに、大手製薬会社の武田薬品工業は2016年、フランスのEnterome社と腸内細菌を標的とした消化器疾患治療薬の共同開発に取り組む契約を結んだと発表しました。

まとめ

腸内細菌は腸に送られてきた食べ物をエネルギーに変換する役割だけでなく、そのエネルギーの代謝を調整する役割を担っており、この腸内細菌を移植することで移植元の代謝レベルを受け継ぐことができるのです。

なお、外科的な手術や、化学合成でつくられた薬剤を使って病気を治療するよりも、ヒトが本来持っている腸内細菌の環境を変えることで疾患を治す方が当然、副作用のリスクも低いといえます。また、腸内細菌移植を行わなくても食生活で腸内フローラを変えることは可能です。

むやみにダイエットを続けるよりも、腸内環境を良くすることから始めてみてはいかがでしょうか。肥満が改善されるかもしれません。

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